ベネディクト・カンバーバッチが主役をした『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』をAmazonプライムで観ました。第二次世界大戦時のドイツが作った暗号機「エニグマ」を解読した数学者アラン・チューリングの人生を描いた映画です。
素晴らしい映画で感動したのですが、こういうテーマが深くてたくさんある物語を映画で表現するのは難しいのだな、と率直に思いました。ナチスドイツに対抗する暗号分析スペシャリストたちの葛藤、スパイ小説のような軍部や警察との攻防、クロスワードパズル好きなヒロインとの愛、少年期に訪れた愛する友人の死、世界で初めて作られたコンピュータ、ゲイを違法とする当時の法律。テーマとなりうるエレメントが多いのです。これはなかなか監督もテーマを絞りきれなかったのではないでしょうか。
ラストシーンで主人公がゲイであり当時の法律ではそれが犯罪であることが語られ、2013年になってエリザベス女王から恩赦を受けて名誉回復したことが示されますが、最初の印象は、説明っぽいな、とってつけたようだな、でした。それはたぶん、わたしがこの映画を「ゲイ」の天才数学者の物語として観ていたのではなく「エニグマ」を打ち破った天才数学者の物語として観ていたからです。
人の人生はテーマに満ちています。決して単純化することも類型化することもできません。しかし、物語にするためにはテーマを絞らないと観客や読者が混乱したり、せっかくの意図が薄まってしまったりしてしまうのでしょう。この映画の場合、完全に天才数学者の冒険小説、スリラー、サスペンスにしてしまうか、ひとりのナイーブな男の内面と性と人生を描くのか、どちらかにすべきだったのかもしれません。
わたしはここで大きな教訓を得ました。読者を喜ばそうとして盛りだくさんにしてはいけない。執筆者に能力が足りない場合、読者は消化不良を起こしてしまうかもしれない。テーマを絞ること、絞った上でそれにそって徹底的に書き込むこと。その方が読者にとっても親切ですし、執筆者にとっても本当に伝えたいことが伝わるのでしょう。
わたしは自分の小説を書く際に、いつも悩んでいることがありました。それは、「梗概」を書くことが難しい、うまく書けない、ということでした。なぜだろうと、いつも考え込んでしまいます。もちろん、他にも理由があるのだと思いますが、ひとつはテーマが絞りきれていないからなのかもしれません。テーマを絞り、視点を絞り、言葉を絞る。次に書く作品は、それを意識していきたいと思います。